少女辞典 1・2巻 感想

女心を知るため出会った少女の記録を『少女辞典』に書き留めている隙間おばけのギコと、彼が潜む古びた寮にやってきた家出少女の八千子によるホラーコメディ。
ギコの行為だけ見ると完全に変態のそれなのだが、実際はギコと八千子が協力しながら少女達の悩みを解決していく物語。基本1話完結でありながらギコに纏わる不穏な過去も垣間見えて今一番楽しみにしている作品。
少女達を、見て、視て、観て、書き記す。それが「少女辞典」。 (ガンガンONLINE)
公式に1・2話と最新2話の試し読みが載っているのでとりあえずどうぞ。1話を見れば作品の雰囲気は大体掴めるはず。少女辞典1巻出ました! pic.twitter.com/l7Rx01gMky
— まりやす (@mariyasu_ame) October 22, 2018
ガンガンONLINEのイラストや単行本の表紙の時点で画力の高さは窺い知れたのだが実際に本編を読んでみると、高い画力を存分に活かした演出、可愛らしいキャラデザと表情の豊かさ、躍動感のあるアクションなど全体的なクオリティが想像以上で驚いた。
基本コメディタッチなのに忘れた頃にやってくるホラー描写は高い画力も相まって中々の迫力。画面全体を覆い尽くすギコや、少女辞典の血塗れのページなどが何の前触れもなくやってきて一応ホラーものでもあることを再認識させてくれる。
更に基本1話完結のストーリーもギコと八千子が多少?いがみ合いながらもなんだかんだ息を合わせて問題の解決を図るバディ感が楽しく、ギコと寮の過去に纏わる不穏な描写も垣間見えて、読み終わる頃にはすっかりこの作品の虜になってしまった。
舞台は現代でありながらレトロな小物や背景に扉絵、ベタ多めの画風、各話で一風変わった少女が登場…というのが何となく『さよなら絶望先生』に近い雰囲気。ただしあくまでそれっぽいというだけで作者独自の持ち味を活かしている感じで個人的にはこっちの方が好みかも。
単純な画力以上にこの作品の良いところは、要所要所に挟まれる抜群の演出センス。
- 宇宙を目指す少女が友人の死を再認識し、これまでのことを振り返りながらコマ割りに見立てた階段を駆け上がる。
- 足の不自由な少女がギコの力を借りて力強く大地を踏みしめる。ギコ憑依時の姿がレギンス風でオシャレなのもポイント。
- 『成功を呼ぶ女優』の二つ名を持つ少女がプレッシャーに押しつぶされそうになる様子を映画フィルムの動きで表現し、カチンコによる場面転換で拍子木と遮断器の模様をシンクロ。

3つ目は丸々2ページを映画フィルムで埋めて最後のカチンコでページを捲った途端、今にも遮断器を潜って線路に分け入るのではないかという切迫感がこれでもかと伝わってくるのが凄い。カチンコと遮断器のシンクロ部分は白黒の漫画ならではの表現だし、カチンコの「カン」という音から遮断器の「カンカンカン」に繋ぐ擬音を使った表現もお見事。
踏切は過去にストーカー男が少女のおかげで自殺を踏み留まった場所で、今度は逆に彼が女優業で追い詰められた彼女を救うというシチュエーションも良い。これらの積み重ねがあったからこそ、最後のプレッシャーから解放された彼女の笑顔が映えるわけで、9・10話の完成度は何度読んでも素晴らしいなと思う。
八千子のギコに対する遠慮のなさとそれに伴う豊富なアクションも見どころ。この漫画のストーリー的にそこまで重要でもなさそうなアクション描写にも結構力が入っていて、主にギコへ放たれる強烈な蹴り、腰の入った右ストレート、必殺技のバックドロップ、刃物を持った相手を取り押さえる…など毎回ただの女子高生とは思えないキレの良い動きを魅せてくれる。
しかも上記のアクションを涙目でキャーキャー取り乱しながらも反射的にこなせるのが凄い。本人曰く「驚くと手が出るクセ」だそうだが、剣道部のはずなのに素手の時点で強すぎる…。

タイトルに『辞典』と含まれているだけあって各所にギミックが含まれているのも面白い。できれば電子書籍ではなく紙の本で味わってほしいところ。
- 各話ごとにインデックス(索引)が付いていて、本物の辞典と同じような感覚で使える。
- コマとコマの間に『スキマメモ』というギコの感想が辞典の隙間に書き込んだメモっぽい。
- 各話の最後に新たに出会った〇〇少女のイラストやプロフィールを掲載。文章に旧漢字やレトロな書体が使われていて、描き下ろしの『隙間資料』も補足として挟んだ1ページ感がある。
- 2話の『隠し〇〇』は実はこの漫画にも隠されている。一応電子書籍にも載っているようなのだが紙の本でないとこの演出は物足りないかも。
少女辞典に載っている少女は大抵名前に漢数字が含まれているのに、自殺少女こと飛高小鳥だけ例外なのがちょっと気になる。別に他の大数や小数というわけでもなさそうなのが謎。
数字 | 名前 | 〇〇少女 | 話数 |
0 | 零子 | ||
1 | 榊一美 | 病弱 | 5 |
2 | |||
3 | 色三菊里 | 友愛 | 13 |
4 | 文野四織 | 文学 | 2 |
5 | 五十嵐学美 | 勉学 | 8 |
6 | 神崎六花 | 霊感 | 3 |
7 | 七座オリエ | 女優 | 9~10 |
8 | 戸隠八千子 | 家出 | 1,11 |
9 | 九十九九音 | 薄幸 | 6~7 |
10 | 十十万ねむ | 睡眠 | 12 |
? | 飛高小鳥 | 自殺 | 4 |
寮長(男)の古屋千歳に『千』、作者名の安井万里絵に『万』も含まれていたり。
『二』の子と、物語の核心を担ってそうな零子はそのうち出番あるだろうけど、一通り揃ってからは最新13話みたいに八千子以外の少女がメインになることも増えそう。
これだけ少女が出てくるにもかかわらずキャラ付けも上手いし、大数・小数ともに使えそうな漢字は結構ある(京、正、厘、沙、刹那)のでまだまだ新キャラの登場にも期待したい。
同作者の自主制作アニメや、HPの雨小屋に載せている読み切り『傘子』『カナコさん』、長編漫画『黒鬼』もオススメ。イラストやGIFアニメのセンスも良くてこの人ほんと多彩だなと思う。
あと『黒鬼』には少女辞典でゲスト出演しているキャラもいるので探してみると良いかも。
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